日常あれこれ

「原爆の図」を見て、生きる力をもらう

丸木美術館の「原爆の図」を見てきました。小学校の授業で習った、髪を振り乱した丸裸の人たちが、立ち枯れた木みたいに列をなしている教科書の写真が記憶にあって、原爆投下後の凄惨な風景を描いた絵だろうと、どうも足が美術館に向きませんでした。

ところが実際に「原爆の図」を見た感想ですが、まず、大きな屏風絵なんです。かきつばた図みたいに、余白の使い方が日本画的で、遠目から見ると、黒い部分と白い部分の描き分け、流れがすっきりしてます。さらに、傷ついて苦しんでいる女性の姿が、ボッティチェリの「春」の構図を彷彿させたりもします。横に長い屏風絵をうまく活用して、絵巻物のように右から左にストーリー仕立てになってる作品があります。つまり、描かれている題材は重く、ひとつひとつはグロテスクであっても、絵画として美しく完成され、ずっと見ていられるんです。

「原爆の図」は、以前の僕のように、グロテスクで気持ち悪いだけの絵だろうと思っている方にぜひ見てもらいたいです。夫がシュルレアリスム+水墨画、妻が油絵の洋画、というバックグラウンドがよく分かる、構図やストーリー、墨一色の描き込みが素晴らしい作品だと思いました。

2Fがメインとなる原爆の図、1Fがその他作品なんですけど、他人が書いたんじゃないかと思うくらい、完成度がまるで違います。新館には最近の作品として、南京大虐殺、水俣病、アウシュビッツ、を描いたものがあります。人間の愚かな所業についての丸木夫妻の視野の広さに安心するとともに、自分自身を視点を試す機会にもなりました。

丸木美術館を後にして車を走らせていると、自分が生きているという事実が貴重なこと、いま生きていることのパワーをかすかに感じることができました。人間の愚かさと死を描いた絵を見たからこそ、逆にいま存在している自分の尊さに気づくことができたのか。日々何もせず過ごすだけ、生きている意味を見いだせない自分、生きることの強さを取り戻したいと思いました。