青山のパティスリー、アングラン(UN GRAIN)の「生花と製菓の融合」をテーマにしたイベントに行ってきました。
レストランにバラの香りが充満していたらどうだろう?そんな場所でステーキを食べたいとは思えないはず。レストランに強い香りはタブーというのは常識だ。しかしそんなタブーをあっさりと破って、アングランのこじんまりとした店内に1000本の和バラの香りを充満させる。
こんなことって今まであったか?そしてふと思う。そんな常識はただの思い込みなんじゃない?食事はさておき、デザートと花の香りというのはもしかしたら相性が良いのではないか?さわやかな和バラの香りをかぎながら、花びらを散らしながら食べるデセールはとても上品な味わいに変わる。
シェフはあえて不完全なままデセールを提供する。デセールを完成させるのは客だ。「ホワイトコンプレックス」のテーマの通り、白いキャンバスに見立てたデセールに、白、赤、黄…の色とりどりのバラを散らして視覚的に完成させる。それを口に入れて、バラの味わいとフルーツ、クリームの味わいがまじりあい味覚的に完成される。
五感をフルに使って、さらに想像力と創造力といった第六感もフル稼働して、自分の手を動かしてデセールを完成させて味わう。シェフとフラワーアーティストと自分の三人でコラボして完成させたインスタレーション。食べ方に正解はないから、どう食べようが自由。それでもこのアートを五感で感じとって完成させていくのは簡単ではないと思った。
僕は今まで、シェフと食事がアーティストと作品の関係なら、食べる客は作品を鑑賞する人、徹底的に受動的な立場だと思い込んできた。食べるという行為に創造性はゼロ。しかし、このイベントでは立場が逆転する。彼らが準備してくれたキャンバスに、客が花びらを散らして、香りをかぐことで、客がアーティストになる。受動的な立場から自らも作品に参加することになる。作る人・食べる人の一方通行のなじみのある関係から、インスタレーションの芸術の共同作業者となる。
昆布シェフ、長嶋スーシェフ、志村フラワーコラボレータの三名と、三名の客。アングランの限られた空間で完成された、たった六名だけのための、その場限りの小さな芸術作品。すべてのものがデジタル化され、広大なネットの世界で永遠の命をもつ現代、この一瞬のはかなさと直感、感覚こそが人生の味わいだと感じました。