読書・評論

「21世紀の資本」のとりあえずのまとめ

「21世紀の資本」をようやく第III部まで読み終えました。第IV部は国際資産課税などのピケティの提言が主になるので、歴史的な格差論の分析はほぼ読み終わったと言ってもいいと思います。第I部と第II部を読むのに時間がかかった反面、第III部は面白くてどんどん読み進められました。

第III部は、小難しい経済の学術書というより、ビルゲイツたち超富裕層や、ハーバードやサウジなどの基金の運用についても記述があって、現代の格差を分かりやすく書いてくれているので、僕みたいな普通の人にも一読をお勧めできる内容になっています。

実のところ、600ページある大著ですけど、第I部、第II部、第IV部はすっ飛ばして、第III部だけ読めば十分だと思います。重要なr>gの公式も第III部に出てくるし、富裕層と貧困層の格差についてある程度のニュースと常識を知っていれば、スムーズに読むことができます。

この国の富の半分、5兆ドルは1%の金持ちのものだ。1/3は働いて得た金、2/3は相続した金。利息で食う未亡人やバカ息子、その中でおれは株と不動産の投機、くだらんよ!国民の9割は何の財産も持っていない。俺が何を創ってる?所有するだけだ。そのおれたちが社会を動かす。戦争、平和、飢餓、紙クリップの値段…大衆は手品を見るように口を開けて見ている。君だってこれを民主主義とは思うまい。自由市場の社会さ、君もその一員だ。(映画「ウォール街」1987年、投資家ゴードン・ゲッコーのセリフ)

この本の要旨を自分なりにざっくりと言うと、1700年以降の長い歴史の中でも、戦中・戦後は金融資産や不動産といった資本の価値が崩壊した異常事態だった。戦争で資本が物理的に破壊され、戦後のインフレと課税で資本の価値が暴落した。現代は戦前のような資本優位の世界に戻りつつある。歴史的に見て、資本が生み出す利益率は経済成長率(=給料の上昇)よりも常に大きく、そのギャップを埋める自然の法則は存在しない。

新興国の高い経済成長率は先進国の技術レベルに追いついて、爆発的な人口増がなくなると、自然に1%程度に落ち着く。資本収益率は歴史的に5%程度(現代は4%くらい)なので、その差の3~4%で、格差がどんどん開いていく。ただ世界的には経済成長率は当面2~3%なので、そのギャップ1~2%では、戦前の貴族のような、金利だけで豪勢な生活ができる純粋な不労所得者はなかなか増えない。一方で、中小の不労所得者は増えていく。

戦後生まれの僕らは、労働所得が資本所得よりも大きく稼げた、という稀有な時代に生まれたために、それが当然だと思い、貧しいのは自分の努力が足りないからだ、という自己責任論に傾きがちだけれど、そうではなく、現代では相続などで得た財産がどれだけあるかが、一生懸命働くことよりも重要な時代になってしまったようです。そして何もしなければ、格差は大きくなることはあれ、小さくなることはなさそうです。