旅行

父と金沢に旨いものを食いに行った

なぜか親子二人で旅行することに

母が昨年亡くなって、親父が真っ先に言ったことは「旅に出たい」でした。地方のうまいもん食って、居酒屋で地元の人と酒を酌み交わしながら仲良くなって、誰にも面倒をかけずに遠くで生活したい。そんなことばかり言ってました。むかし経営者の集まりで行った金沢の橋立港で食べたカニが最高にうまかった、漁師町なんか行きたいなあ、などとずいぶんと聞かされました。

それからもう半年がたちます。地元に根っこが生えたみたいに全く動く気配がありません。金沢行かないの、と水を向けても、だいぶおっくうになっちゃって、と言葉を濁したまま、最近できた飲み友達と毎日スナックをはしごしてます。それはそれで構わないのですが、弟と本当に旅行行くかどうかで議論し10000バーツかけた手前、何としても行ってもらわないと自分の立場にもかかわります。そこで自ら動いて、金沢に一緒に二泊三日の旅行に行くことにしました。お互い長い人生で初めての親子二人旅行です。

 

親父の選別眼はミシュランレベル

着いた初日、長町武家屋敷跡を散策していたら、少しレトロな雰囲気の居酒屋横丁みたいな通り、木倉町を発見しました。まさに親父が望んでいる地方の居酒屋のイメージそのままです。「俺のうまい店を探す嗅覚を信じろ」という言葉を信じ、食べログもぐるなびも見ずに通りを一往復して、お邪魔したのが「旬房 さかい」。野菜も魚も新鮮、味付けも絶妙、調理も丁寧、器もきれいだし、のっけから金沢の実力を見せつけられました。お任せのみでしたが、ヒラメの昆布締めにウニがのったもの、ホタルイカ、太刀魚の揚げ物、最後に出してもらったそら豆・ゴボウのゆでもの、どれも旅の思い出に残るレベルです。

「息子の手前心配だったけど、自分のうまい店を探す嗅覚が衰えてなくてよかった」と、店主に話してましたが、ネットで検索したらミシュラン一つ星に輝くお店とは…親父、あんたの見る目はミシュラン一つ星レベルだよ、とおだてておきました。ちなみにお値段は一人1万円、価格は居酒屋レベルとはいきませんでしたが、料理、サービスともにまったく納得感のあるお店でした。

 

金沢はカフェ・喫茶店のレベルも高い

高齢で喫煙者の親父と一緒に旅行していると、途中でしばしば休憩をはさむことになります。金沢は歴史のある観光地かつ中核都市だけあって、昔から続いている渋い喫茶店や最近できた個人経営のおしゃれなカフェがいろんなところにあります。長町武家屋敷跡のアメリカンビンテージな「MORON CAFE」でぬるいチャイを飲みながら雨宿り、東尋坊(金沢じゃないけど)のジャズの流れる純喫茶「ダウンビート」でタバコを吸いながら雨宿り、兼六園の駐車場近くの歴史あるカフェ「いしかわ門」でアーモンドラテを飲んでいたら雨が降り始め…とまあ、今回の旅行は雨と切り離せないものになりました。お店の人に聞いてもこの地域は天気が悪いことが多いようです。

喫茶店で雨を眺めて過ごすというのも贅沢な時間の使い方ですが、われらは旅人、一休みしたら次の場所へ動かなければなりません。ほんのひと時とは言え個性ある喫茶店で休憩できたのは、親父というよりは僕の旅の思い出として記憶に残るものとなりました。